日食を追いかけて44年

太陽や月はあるのが当り前で、注意深く見る人は案外少ない。その見かけの大きさがほとんど同じであることに気づく人も多くはない。太陽と月とどちらが大きい?と聞けば、子どもでも太陽と答える。ではなぜ同じ大きさに見えるのか。太陽は月の約400倍の直径だが、月より約400倍遠くにある。なので地球から見るとほぼ同じ大きさに見えるのだ。この400という数字に意味はなく、全くの偶然である。この偶然が作り出す現象が「日食」だ。

中高で毎日太陽黒点観測をしていた私は、理科大に入るとすぐ天文研究部に入部した。そこで一人の先輩がオーストラリアで起きる皆既日食に誘ってくれたのだ。この時に見た皆既日食の光景に衝撃を受けた。この世界にこんな美しいものがあったのか!それ以来、日食と共に歩む人生を送ることになってしまった。

地球の周りを回る月の軌道が楕円なので、地球から見る月の大きさは刻々と変わる。月が大きく見える時に日食が起きると、太陽を完全に隠す皆既日食になる。月が小さく見える時に日食になると、月が太陽を隠しきれずに金環日食になる。これらの日食は、地球全体では2年で3回程度起きるが、見られる範囲が非常に狭いため、特定の一カ所を考えるとめったに起きない現象になる。だから日食に出会うためには必然的に海外に出ることになる。私はこれまで、太陽の一部だけ欠けて見える部分日食は除き、36カ国・地域で47回の日食を経験してきた。2012年、日本で見られた金環日食をご覧になった方も多いだろう。

上はトルコ、下はボツワナで撮影したコロナ

しかし、日食の醍醐味は何と言っても皆既日食だ。巨大な月の影が空を走り、地面や建物の壁にさざ波のような細い影がうごめく。太陽が完全に隠されると銀白色のコロナが輝き、暗い空には星が光る。

地平線は360度夕焼け色に染まる。例えようもなく美しい別世界だ。我を忘れて美しさに浸るのも良いが、科学的データを取るための苦労や工夫も、また格別の楽しさがある。

大学卒業後、私は公立中学校の理科教員になった。忙しさが話題になる教員をしながらこれだけの日食を観測できたのは、支えてくれた同僚や上司、教育委員会に恵まれたおかげだ。そして、観測のようすや成果を目を輝かせて聞いてくれる生徒たちがいたことが、何よりの励みになったことは言うまでもない。

学校を退職後、現在は三鷹にある国立天文台で天文普及の手伝いをさせていただいている。子どもたちより年配者を相手にすることが増えたが、それもまた楽しい。(ぜひ一度見学においで下さい。)そんな中で今は、来年夏に南米チリで起きる皆既日食の準備で忙しい。日食との付き合いはこれからも続く。目標の一つは2035年に本州で見られる皆既日食を夫婦で元気に見ることである。

2035年9月2日、斜めに走る帯の中だけで皆既日食が見られる

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